生きるので精いっぱい、逆カルチャーショック

日本に帰ってから手首の骨折の修復手術を受け、一年ほど経った私はある朝早く胸の痛みがあって汗が滴り落ちていて何もできない。ついに救急車を呼んで病院に運ばれて診断を受けると心筋梗塞と言う。あと十分遅れて搬送されたらアウトでしたね!と言われた。心臓の冠動脈が詰まっていたのである。驚いた。入院先のICUでは不思議なことが起きた。手術後、安静にしなくてはいけない私が唯一できることは瞑想だけなので私の人生を見つめ直して静かにして寝ながら目を閉じて瞑想していると真夜中に呼吸と脈拍の機械が反応してピンポーン、ピンポーン、とうるさく鳴っている。他の患者に迷惑だと思っているうちに走って駆けつけた看護師に何故こんなに音がするのか聞いてみると、何でも無い、機械の誤作動でした、と言う。精神が落ち着くと呼吸や心臓の拍動がゼロに近くなって、それで機械が反応していた、と気付いたのは退院した後であった。精神が極端に静かになると呼吸数は少なくなり、心臓の拍動も極端に遅くなって来る。それ以来五年が経っている。アメリカで四十五年ほど住んでいた私は半分が日本人で半分がアメリカ人のようなもので、日本の居心地が悪い訳ではないけれども逆カルチャーショックを受けているのではないかと思う時がある。ボロボロになった身体で日本の社会に生きるには生きていくだけで精いっぱいのこの五年間であった。やっと最近になって慣れて来たかな?!と思うようになった。そして何より身体が回復して来たのと比例して日本の生活に慣れて来たのである。私はどこから見ても日本人でこんな身体になっても大きな男を投げ飛ばすので私が生きるので精いっぱいというのは理解できないかも知れない。 一日を精いっぱい生きる、を今でも続けてあと五十年、を目標にして毎日を生きている。師母は百歳を越えて生きた。私は師母の長寿をさらに超えて生きたい、と願っている。